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広島高等裁判所 平成3年(ネ)299号 判決 1992年11月11日

主文

一  本件控訴及び当審における新請求をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断するが、その理由は、次に付加、訂正する外は、原判決理由説示(原判決一一枚目裏末行の冒頭から同一六枚目裏七行目末尾まで)と同一であるから、これを引用する。

原判決一二枚目表五行目の「甲六、一六」の次に「、乙五」を加える。

同一三枚目表五行目から次行にかけての「参酌すべき資料として」の次に「甲意匠と同じく控訴人が意匠権を有する視力測定車である」を、同裏末行の「類型を」の次に「ほぼ」を、それぞれ加える。

同一四枚目表一行目から同一五枚目表五行目までを、次のとおり改める。

「(二) そこで、検討するに、意匠は、物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であつて、視覚を通じて美感を起こさせるものであり(意匠法二条一項)、その類否を判断するには、意匠法が物品の外観から看て取れる審美的価値を保護の対象としている趣旨に鑑み、当該物品の外観を全体的に考察すると同時に、意匠の要部、すなわち、看者の最も注意を惹く部分に着目して、比較する意匠の間に、看る者に美感を生起させるうえでの混同を生じさせるか否かによつて決すべきである。

ところで、前記認定のとおり、甲意匠は、車両の内部に視力測定機器等を載置した視力測定車であり、審美的価値の保護の観点から考察すると、車両の型、窓やドアの配置等の外部の形状と、その内部における視力測定機器等の形状や配置状況が、全体として看る者に一定の美感を生起させるものであるというべきところ、走行する車両であることから、最も注意を惹く部分は、その外部の外観であるといわなければならないが、同時に、その使用にあたつては、内部に立ち入ることが当然の前提となつていることから、その内部の外観も、意匠の要部とみて差し支えないものと考える。

この点について、控訴人は、甲意匠及び乙意匠とも、その要部は視力測定をするという機能を有した自動車の機能的かつ合理的な美観にあり、その意味からは、車両の外部の外観よりも、その内部の外観に、看る者の注意を惹く要部があり、一定の機能を有する意匠(インダストリアルデザイン)として意匠法の保護の対象となる旨主張する。

しかしながら、いわゆるインダストリアルデザインとして意匠法の保護の対象となるのは、工業製品の外形的設計が美的形態と合理的機能を融合した美的商品と評価される場合であり、あくまでも、その重点は、物品の「機能」にあるのではなく、機能を伴う「美感」にあるというべきである。

これを甲意匠についてみるに、自動車に視力測定機器等を載置したことにより、移動式で顧客の視力測定が可能となるという機能は発揮されるけれども、自動車と視力測定機器等の結合自体によつて、看る者をして美感を生起させるとはいえず、その構成をもつてインダストリアルデザインに該当すると評価することはできない。

むしろ、控訴人の右主張を推し進めれば、およそ屋根付自動車の荷台空間に視力測定機器等を載置し、移動式に視力測定ができるようにした車両は、甲意匠(ひいては、甲意匠の類似範囲を決定するについて参酌すべき資料としての乙意匠及びその類似意匠)の意匠権を侵害するということになり兼ねず、そうなると、もはや、意匠権の名の下に技術的な考案を保護することになつて(その保護は実用新案法の目的とするところである。)、視覚を通じて生起する美感を保護しようとする意匠法の保護の範囲を逸脱するものといわなければならない。

したがつて、控訴人の右主張は、到底採用することができない。

そこで、以下、甲意匠(ひいては、甲意匠の類似範囲を決定するについて参酌すべき資料としての乙意匠及びその類似意匠)の要部は、視力測定車としての車両の外部及び内部の各外観から生起する美感にあることを前提として、イ号物件の意匠が甲意匠の意匠権を侵害するか否かについて、検討を進めることとする。」

同一六枚目表九行目から同裏七行目までを、次のとおり改める。

「4 そこで、イ号物件の意匠を甲意匠を対比して考察するに、まず、車両の外部の外観においては、キャブオーバー型箱形車であること、天井が全体に平坦であることの各点において共通しているが、(一)甲意匠では、左右側面にそれぞれ運転席の側窓と六個の側窓があるのに対し、イ号物件の意匠では、右側面に運転席の側窓と二個のはめこみ状の横長側窓があり、左側面には運転席の側窓と引戸状の横長側窓を有した乗降用扉(大型スライドドア)とはめこみ状の横長側窓があること、(二)甲意匠では、運転席右側面に外開き式ドアがあり、運転席左側面にはドアがないのに対し、イ号物件の意匠では、運転席の左右両側面にそれぞれ外開き式ドアがあること、(三)甲意匠では、左側面に押し開き式の乗降用扉(窓二個付き)があるのに対し、イ号物件の意匠では、これがなく、左側面に引戸状の横長側窓を有した乗降用扉(大型スライドドア)があること、(四)甲意匠では、荷室の後面は固定面であつて、リアドアがないのに対し、イ号物件の意匠では、荷室の後面に大型昇降用ドアがあること、以上の各点などにおいて、明らかに多くの相違点があるというべきである。

次に、車両の内部の外観についてみるに、イ号物件の意匠と甲意匠は、荷台空間に視力測定機器等を載置している点において共通しているが、(一)甲意匠では、運転席後方の荷室内部に右側内面に沿つて一個のテーブルとその前後に二個の椅子を配置し、テーブルの上に視力測定機器を載置しているのに対し、イ号物件の意匠では、運転席後方の荷台空間の右側部に視力測定機器を載置して可動の丸椅子を配置していること、(二)甲意匠では、運転席背面に視力表が固定して設けられているのに対し、イ号物件の意匠では、天井部分の中央にガイドレールを設置し、移動自在の視力表が取り付けられていること、(三)イ号物件の意匠では、荷台空間の左側部にオプトメーター、可動式の丸椅子が配置され、荷台空間の最後端には横長手椅子を配置しているのに対し、甲意匠では、これらの配置がいずれもないことなど、車両の外部の外観と同様に、明らかに多くの相違点があるというべきである。

なお、甲意匠の類似範囲を決定するについて参酌すべき資料としての乙意匠及びその類似意匠における車両内部の外観と、イ号物件の意匠のそれを対比しても、確かに、乙意匠の類似意匠は車両内部における視力機器等の配置につき合理的に考えられる限りの類型をほぼ尽くしているといえるが、前記イ号物件の意匠の内部の外観と一致するものはなく、ことに、イ号物件の意匠が荷台空間の天井部分の中央にガイドレールを設置し、移動自在の視力表を取り付けている点は、乙意匠及びその類似意匠にはないことからして、相違点があることは明らかである。

以上の考察を総合すれば、甲意匠(ひいては、甲意匠の類似範囲を決定するについて参酌すべき資料としての乙意匠及びその類似意匠)とイ号物件の意匠とを対比した場合、その要部といえる車両の外部及び内部の各外観において、明らかな相違点があり、全体的に観察して、看る者に視覚を通じて生起させる美感につき混同を生じさせるものではないと判断される。

したがつて、イ号物件の意匠は、甲意匠の意匠権を侵害するものではないというべきであり、控訴人の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がないことに帰する。」

二  当審における新請求について

控訴人は、当審において、被控訴人らがイ号物件の視力測定車を使用することは、甲意匠権の実施に基づき製作した控訴人の商品である視力測定車との混同を生じさせるものであり、不正競争防止法に基づく使用差止請求等が認められるべきである旨主張する。

しかしながら、不正競争防止法の保護の対象となる商品は、本邦内で(全国ないしは一地方において)広く認識されていること、すなわち、周知性が必要とされるところ(同法一条一項一号)、本件全証拠によるも、控訴人の右視力測定車が控訴人の商品として同法の保護を受けるに足りるだけの周知性を獲得していることを認めるには足りない。

したがつて、その余の点についての判断をするまでもなく、控訴人の当審における新請求は理由がない。

三  結論

以上の次第で、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないから、これを棄却すべきところ、これと同旨の原判決は相当であり、控訴人の当審における新請求も理由がないからこれを棄却すべきである。

よつて、本件控訴及び当審における新請求は理由がないから、いずれもこれを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 山田忠治 裁判官 佐藤武彦 裁判官 難波孝一)

《当事者》

控訴人 株式会社 ニッセツ

右代表者代表取締役 倉本洋典

右訴訟代理人弁護士 沖田哲義

被控訴人 有限会社 メガネの美幸

右代表者代表取締役 原田 幸 <ほか二名>

右三名訴訟代理人弁護士 田中千秋

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